仕事と人

理系出身者が語るJPXの仕事

取引所のなかで理系出身者はどのような職務についているのか、その知見や特徴を活かすことができているのか――。そんな疑問にお答えするために、理系の大学院出身者3名に集まってもらい、志望理由や仕事内容、理系の考え方が役立つ場面などについて本音で語ってもらいました。

PROFILE

小林 寛典

日本証券クリアリング機構
OTCデリバティブ清算部
創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻修了
2018年入社

櫻井 駿平

情報サービス部
理工学研究科 開放環境科学専攻修了
2019年入社

南雲 将太

日本証券クリアリング機構
取引所取引清算部
工学系研究科 物理工学専攻修了
2016年入社

まだまだ少ない理系出身者

南雲今日は理系社員のクロストークということで3人が集まりましたが、JPXはまだまだ少ないですよね、理系。修士出身は同期にもう一人いますが、全社員で見ると体感として5%いるかどうか。

櫻井一般に金融業界で理系の職種というとクオンツくらいしか思い浮かびませんし、活躍フィールドがないと思われているのでしょう。私の場合は機関投資家の投資が市場に及ぼす影響を研究テーマにしていたため、JPXは金融市場の研究で得られた知見を活かし、深められる理想の就職先だと考えていました。

南雲私も大学院では株式市場の解析を行っていたので、公共性と数理という軸で就職活動をした時、JPXが自然に候補のひとつとして浮かびました。官公庁で働く選択肢も最後までありましたが、仕事に数理を使えるという点が決め手でしたね。私は櫻井さんと同じく、JPXで自分の専門が活かせることを知っていたわけですが、小林さんはどうしてJPXを?

小林 私は学生時代、JPXのことをほとんど知りませんでした。専門の石油資源探査の知見が活きる業界とは離れていますからね。ただ、資源探査は調査に莫大な資金が必要で、お金の重要性を痛感することが多かったです。日本経済の発展・より豊かな社会の実現に寄与したいと考えて就職活動をする中で、企業活動にも十分な資金があればより経済を活性化できるのではないかと考えました。その中で、企業の資金調達手段となる証券市場を支えるJPXに興味を持ち、会社の公益性や、日本社会や経済に及ぼす影響力の大きさに魅力を感じ、入社を決めました。

南雲 自分の専門性を活かすということに、こだわりはありませんでした?

小林 専門性は個人の持つ能力の1つと考えており、強いこだわりはありませんでした。学生時代の研究をそのまま活かせるのは一握りの専門職・研究職の方々ではないでしょうか。

櫻井 その通りですね。理系の学生もそれはよくわかっています。ただ、メーカーならたとえば電気系や機械系の知識がどこかで活かせそうだと想像しやすいですが、取引所だと理系の活躍場所がイメージできないのだと思います。

理系出身者の活躍場所

南雲 では、理系出身の我々がどんな仕事をしているかですが、私と小林さんは日本証券クリアリング機構(JSCC)、櫻井さんが情報サービス部。どちらも比較的理系出身者の配属が多い部門ですが、どのような仕事かを簡単に紹介しましょう。

小林 JSCCは取引所取引、店頭(OTC)デリバティブ取引、国債店頭取引の清算業務を行うJPXの金融商品取引清算機関です。私はOTCデリバティブ清算部でIRS(金利スワップ)取引を担当しています。円建てIRS取引の世界的清算シェアの維持・拡大をめざし、海外を含む金融機関とのコミュニケーションを通じてニーズを把握し、必要に応じてシステム開発部門と協同して新サービスの検討や既存制度・サービスの改善を行っています。

櫻井 マニアックな世界なので、学生さんにはどんな仕事かイメージしにくいですかね(笑)。

南雲 ではもう少し具体的に。たとえば証券の取引が行われたときに、買い手が証券を、売り手がお金を確実に受け取ることができるよう、安心かつ円滑な清算・決済を実現するのがJSCCの役割です。IRSは取引される商品のひとつですね。私が所属する取引所取引清算部では、主に株券や金融デリバティブ、2020年7月からは貴金属や原油等の商品デリバティブについても清算・決済を担っています。買い手の破綻により連鎖的な危機が起きないよう、証券会社等はJSCCに担保(証拠金)を預けるのですが、その算出モデルを考えるのが最近の私の仕事です。

小林 算出モデルと聞くといきなり理系らしさが表れますね。付け加えると私たちが取り扱うデリバティブ自体が金融工学商品ですから、理系学生にはなじみやすいと思います。

南雲 証拠金モデル構築の例だと、バックデータの分析にプログラミングは日々使いますし、将来起こりうる市場リスク等を予め想定するために確率解析の手法を用います。理系の基礎が活かせる職場ですね。

櫻井 私は情報サービス部で株価、指数、企業の決算情報など、証券市場のデータを投資家や報道機関に配信するビジネスを担当しています。正確で多様な情報を、リアルタイムに使いやすい形式で配信することで、日本経済の温度計としての役割を果たすことがミッションですね。近年はオルタナティブデータとして新しいデータに対する注目が高まっており、社内外の新しいデータの配信企画や、既存の配信データをより使いやすいように改善するプロジェクトを推進しています。

小林 オルタナティブデータというと、たとえばどんなものですか?

櫻井 たとえば信用取引のデータなどJPXが保有しながら公表していないものや、企業の決算発表で発言された内容の書き起こしなど、世界の投資家の参考になりうる情報はたくさんあります。それらを発掘し、かつ使いやすく発信することが重要だと考えています。

南雲 理系の知見や経験が活かされるのはどんな場面ですか?

櫻井 ユーザーニーズの把握にデータ分析の経験が活かされますし、プログラミングの経験も役立っています。社内の新データ配信を企画したときは、データ形式の改善提案を行い、自分で加工ツールを作りました。

研究を経て身についた思考法・分析力が活きる

小林 データ解析や確率解析、プログラミングなど理系の知識が活かせる場面を紹介しましたが、私はいちばん理系の素養が活かせるのは、物事を多面的に捉える考え方だと感じています。理系の学生は、実験で得たデータに対してひとつのアプローチのみでなく、多様な視点からの分析を通じて、データの意味・価値を最大限に有効活用することを学んでいます。そうした考え方が身についているので、たとえば外部の金融機関との折衝でも、いただいた意見や質問を文面のみでなく、背景や立場を鑑みて相手の真のニーズを捉えようとします。

南雲 同感です。思考方法でいうと、「物事の枝葉を捨象して本質を捉える」「原理に則って解決策を模索する」といった自然科学の考え方は、業務全般に有用だと思います。

櫻井 確かにそうですね。市場取引はさまざまなルールに基づいて行われますから、何が重要なのか、本質は何なのかを見極めることが非常に重要です。理系のひとつの特徴として、ものごとを単純化して本質を見極めることが好き、というか習い性となっています。

南雲 櫻井さんが市場はルールに基づくと指摘しましたが、市場には公正性を担保するためにさまざまな規則があり、細かく内容が規定されており、各種規則は投資家のニーズや投資行動の変化に伴いしばしば改定されます。その改定の目的は何か、本質は何かを考える時、規則の文章そのものを数式のように単純化して把握しています。

櫻井 つまり法令のように難しく書かれた文章を多方面から分析し、ルールの意図を読み取って、「重要な部分はこれ!」とまとめてしまうわけですね。

南雲 概ねその通りです。取引市場は巨大かつ変化の激しい生き物ですから、その一部の変化に惑わされないためにも、本質を見つめる理系の考え方は有効だと思いますね。

小林 そのほかにも、理系の研究室では結果を数字で示し、説明することが求められます。この過程で身につけた結果の分析力や、導出プロセスの妥当性を検証する力、研究対象のポイントを把握して理解を深めるスキルがJPXの業務で活きていると感じます。研究を経て身につけた専門知識そのものももちろんですが、研究の過程で自然と身についた物事の捉え方や分析能力も、JPXでは活用することができるということですね。

広がる可能性

小林 今後、JPXで理系出身者が活躍できるフィールドはどんなものがあると思いますか?

櫻井 すぐに思いつくのは、クラウドサービスを活用したプロトタイピングや業務効率化ツールのアジャイル開発などでしょうね。私は取引に関するビッグデータを保有していることがJPXの最大の魅力であり、強みだと考えていますので、今後はそれらのビッグデータを活かすAIやML(機械学習)技術などでも理系の活躍フィールドが増えると予想しています。もちろん、取引市場を支える最先端システムの開発や運営にも理系の力が必要です。

南雲 与えられたタスクに対して真摯に向き合う姿勢があれば、どのような部署でも活躍できると思いますが、とりわけフィンテックや、データサイエンスなど特定の分野に関わりたいという強い意向があるのであれば、それが実現されるような環境がJPXにはあると思っています。私は入社2年目から3年目にかけて、総合企画部との兼務として「市場の流動性についての数理的解析」というテーマでJPXワーキングペーパーを執筆し、複数の学会で発表もしたのですが、そうした研究の場が用意されているのもJPXの魅力のひとつです。

小林 私はまだITサービス部とOTCデリバティブ清算部の2部門しか経験していませんが、どちらでも理系の基礎が役立っていると感じています。JPXにはここだけにしかない業務がたくさんありますから、おそらくまだまだ知らない理系のフィールドが広がっていると期待しています。

櫻井 みなさんは、今後JPXでどんなことをしたいと考えていますか? 私はやはりJPXだけが保有する市場に関する詳細なデータから何かを生み出していきたいです。

南雲 若手担当者として手を動かす、分析するということに終始するのではなく、「分析の結果として自部署の施策はかくあるべきだ」という大きなストーリーを描けるようになりたいですね。作業のフェーズから社内外への説明のフェーズ、実行のフェーズに至るまで、自律的にプロジェクトを推進していけるようになることが目標です。

小林 私は理系という枠に囚われず、信頼性の高い取引所として日本経済の発展に寄与するために、高い視座でJPXが世界から求められる役割を把握し、投資家の利便性向上のための施策を推進していきたいです。そのためにも、市場関係者に近い立場で考え方を理解し、同時に施策実現への推進力を培うキャリアを形成したいと考えています。